プロフェッショナルエージェントの視点(株式会社ミライフ 佐藤 雄佑)

インタビュー
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キャリア相談をしたいと思って人材エージェントに頼っても、すぐに求人案件を紹介され、ゴリ押しで転職を勧めてくるー。そんな経験がある方もいるのではないだろうか。

しかし、達成目標を持たず「個人起点のエージェント」を目指す人材エージェント企業がいるという。株式会社ミライフ代表取締役の佐藤さんは、プロの人材エージェントとしてどのような視点で求職者を見ているのだろうか?(取材・執筆:羽田 啓一郎)

幹部候補採用で、企業は求職者のどこを見ているのか?

ー佐藤さんはリクルートでも転職エージェントや人事としてご活躍され、現在はミライフを創業されて独自の人材エージェントを実践されています。まずお聞きしたいのが、企業は求職者のどこを見ているのか、という点です。

年代やポジションによって様々ですが、30代以上の採用や幹部候補、マネジメントクラスの募集の場合はWillではなくCanです。よく「Will,Can,Must」と言われますが、会社の重要な一角を担うポジションを未経験の人に任せるわけにはいきませんからね。

ーとなると、マネジメントが未経験な方は意欲だけではどうにもならない、ということでしょうか。

新卒採用ではないので幹部・マネジメント採用においてポテンシャルを重視することはありませんね。過去の経験と実績をもとに即戦力として活躍していただけるかを判断します。ですので、求職者としてはいかに自分が入社した後の姿を企業にイメージさせられるか。「再現性」が選考時には重要なポイントになるでしょう。

ーキャリアアップを期待して転職活動をする方も多いと思いますが、経験がないと難しいということですね・・・。

実績と経験だけではありません。企業は中途採用において三つの観点を持っています。
まずはスキルフィット。これが先ほどお話しした「Can」ですね。これは絶対に見られますね。
次にビジョンフィットです。これから一緒に働く仲間として同じ方向を向けるか、ということです。企業がやろうとしていることと、その人がやりたいことのベクトルが合っているかどうか。ここが一致していないと将来的な幹部にすることも難しい。そして最後はカルチャーフィットです。その会社の社員とうまくやっていけるか。社風や仕事の進め方が合うかどうか、ですね。

ービジョンとカルチャーを求職者側は面接でどのようにアピールするのでしょうか

面接でどう答えるか、というテクニカルな話ではなくて過去の行動で判断します。未来のことは何とでも言えますからね。過去のファクトでしか見ません。これまでの経験でどんな思考プロセスで仕事をしてきたのかを論理的に説明できるといいです。あとは組織の組み合わせの問題ですね。幹部やマネジメントはポジションの数が多いわけではありません。ある程度の人数を採用するプレイヤーの募集とは事情が違うのです。

ーなるほど。しかし、スタートアップやベンチャーがカルチャーフィットを見るのは分かるのですが、大手企業もカルチャーフィットは重要なのでしょうか?

確かにスタートアップやベンチャーに比べると大手はそこまでカルチャーフィットは重視していないかもしれませんね。大企業はワンカルチャーではありませんからね。ただ、大企業から辞める人はカルチャーフィットが原因で辞める人が多いんですよ。カルチャーが合わないと思っても部署移動すれば解決する場合もあるんですが、自分以外の部署の話も聞いてみた上で「これは異動しても合わないな」と感じて転職活動をする人が多いようです。

キャリアにモヤモヤしている理由の大半は「知らないから」

キャリアにもやもやする理由

ー長く人材業界にいらっしゃいますが、ここ近年、人材・転職マーケットには変化はありましたか?

大きく分けると二つ変化があると思っています。
まず一つ目。転職という行為が以前に比べて今は当たり前になった、ということ。社会背景からしてまるで違う。以前ほど大手企業がキャリアにとっての成功、という風潮でもありません。組織体が大きすぎることによる窮屈さが嫌になってしまう人も多い。ここがギャップなんですよね。上司は部下がずっといてくれると思っていて昔みたいなマネジメントをしているけど、部下である若い層はそんなことない。マネジメントの難易度は上がっていますよ。

ーマネジメントの変化は確かに大きそうですね。

二つ目は人材を扱うサービスが変わった、ということ。例えば企業の口コミサイト。その会社で働いている人たちがどんなことを考えているのかが外から見えるようになってしまった。プロモーションでいくら格好をつけても実態が明るみになってしまった。私は「性格の良い会社」という本を書いているのですが、優秀な人材に選んでもらえる会社になるためには、プロモーションではなくその会社の実態が問われるようになりました。一つ目の変化も二つ目の変化も、求職者にとってプラスの変化です。

ー今、求職者側のお話が出ましたので、求職者側のお話も聞いてみたいと思います。エージェント相談に来る方は、どんな方がいるのでしょうか?

相談に来る、ということは何かに悩んでいるわけですが、転職意向が既に強い方と、キャリアに悩んでモヤモヤしている方の2種類ですね。
一般的には「今の会社が嫌」という理由で転職エージェントに相談に来る人が80%くらいなんではないですかね。でもミライフの場合はそうではなくて今の仕事や会社に不満はない。でも他にやりたいことや、チャレンジしたいことがある、という方も多いですね。終身雇用じゃないということはみんなわかっている。ずっと同じ会社にいるならともかく、そうではないならその会社で頑張る意味は何なのか。自分の長い人生を考えた時に今の会社に居続けることがいいのかどうか、とみんなモヤモヤしているようです。

ー純粋なキャリア相談、ですね。そういう相談者の場合はエージェントとしてどのように対応されるのでしょう?

僕の場合はですが、経歴や実績などの過去の話ではなく、主に「今、未来」についてを聞くんですよ。今、どんなことにモヤモヤしているか、何を望んでいるかを聞いていきます。そして多くの方は色々な状況が見えていないからモヤモヤしてる。大手企業にいても部署以外のことがわからない。自分がやったことのある職種以外のことは大人でも意外と知らないし、人によっては平均年収なども知らない。違う職種でチャレンジしたい、と言う人もいますが、採用する側の事情、気持ちも知らない。先ほどもお話ししましたが、ある程度キャリアがある人を採用する場合は未経験だと採用する側としては厳しいですよ。そうしたあらゆることが見えていないんですね。

ー確かに自分の会社の自分の部署以外のことって社会人でも意外と知らないですよね。

反対に僕ら人材エージェントは色々なキャリアのバリエーションを知っています。必ずしも転職だけがゴールではありません。部署異動で解決することだってあるので、話を聞きながら選択肢を提示していきます。結果的に転職しない人も多くいらっしゃいますね。

人材エージェントビジネスの歪みをどう解消するか

ーでもそれだと人材エージェントとしてはビジネスになりませんよね?それで良いのでしょうか?

僕らミライフはそれで良い、という考え方をしています。求職者が社会を知らない状態で転職ありきのエージェントと出会うと、不満返しの転職をさせられてしまう。それは中長期的に見たらその人のキャリアにとって不幸ですよ。

ー不満返しの転職、とは?

例えば求職者が「給与が低いから転職したい」と言ったとしましょう。そうしたらエージェントは年収が上がる求人案件をご紹介します。でもそれだとその人が大切にしたい他のことが抜けてしまったりします。このように、総合的な判断ではなく一問一答のエージェントが多い。でもそれでその人が幸せになるか、という話なのです。繰り返しになりますが、多くの方は自分の仕事以外のことは意外と知らない。だから顕在化している不平不満だけを転職エージェントに持ち込む。僕らは人材エージェントのプロとして、その人自身も気づいていないモヤモヤの正体や、その人にとってのより良い選択肢を提示する必要があると思っています。

ーミライフが「個人起点のエージェント」と言っている意味がよくわかりました。

ちょっと変わった会社だとは思います(笑)。僕らはありがたいことに、いいクライアント企業に恵まれています。個人起点のエージェントですが企業ともコミュニケーションはとっていますし、企業のニーズはしっかり把握した上で個人をみています。でも、企業ニーズだけを追い求めるエージェントにはなりたくなくて。だから僕らは業績目標を作らないんですよ。短期目標も追っていません。モヤモヤしたビジネスパーソンのキャリア開発のコミュニティプログラム「Miraif Career Design(MCD)」も2020年からスタートさせ、多くの方にご参加いただいています。これは転職ありきではなく、自分の理想的な未来を模索する約三ヶ月間のプログラムです。

ミライフがプロデュースするMiraif Career Design(MCD)

ーMCDに参加した方をエージェントに繋げている、という仕組みでしょうか?

いえ、そんなことはしてませんね。よく言われるんですけど、マーケティングのつもりは一切なくて、必要だと思うのでやっているだけです。なので、MCDではミライフのエージェント事業についての説明やプロモーションは行っていませんよ。

ーなるほど、ミライフのスタンスがよくわかりました。こういう転職エージェントもいるんですね。

これから転職エージェントを使ってみようと思っている人へのアドバイスですが、「転職エージェント」とひとくくりにしないことですよ。どんなエージェントがいいか、というのは一概には言えません。相談するのに適したエージェントと、希望する求人をたくさん持っているエージェントは別です。我々ミライフもいいエージェントに聞こえるかもしれませんが、抱えている求人数は大手のエージェントの方が絶対多いですからね。なので、複数のエージェントを頼ってみるのがいいと思いますよ。

ーなるほど。

ただ、最悪なのはモヤモヤしている期間に転職ゴリ押しエージェントに当たること。エージェントにカモにされてしまいます。これは避けて欲しいですね。でも、エージェントは商売ばかりでキャリア相談乗ってくれないから悪、というのはちょっとエージェントには酷じゃないかなあとは思います。彼らもビジネスですし、そこは理解して欲しい。なので、エージェントに必要以上に期待しすぎず、自分でも判断することですね。

ーエージェントも仕組みを理解して自分にとって良いように選んでいくことが大切ですね。

そうですね。我々エージェントもより”個人”になっていくと思っています。会社じゃなくて指名で選ばれる時代じゃないかと。だから僕らは選ばれるエージェントでありたいですし、そういうエージェントが増えたらいいなと思っています。

ーありがとうございます。では最後に、キャリアにモヤモヤしているビジネスパーソンは何を大切にキャリアを歩んでいけば良いでしょうか?

MCDでもいつも言っているのですが、理想未来を掲げて欲しいです。自分の旗を掲げよう、と。

ー理想未来や旗とはつまりどういうことでしょうか?

理想未来とは、自分が思い描く理想的な未来のあり方のことです。そして旗とは、自分が進むべき道標を自分で立てよう、という意味。会社からの指示にしたがって川下りをしている人って多いんです。そうじゃなくって、仮でもいいし、変わってもいいので若いうちから理想未来を掲げてほしい。

ーその理想未来を探していこう、と。

いえ、理想未来は見つけるものではなく作るものです。別にそれが正解じゃなくてもいい。でも
「わからない」じゃなくて作れ!と。理想未来を持ってる人は強いんです。なぜかというと、理想未来があると一歩進めるから。最終的に叶わなくてもいいんですが、進むべき道がわかっていると一歩進める。北極星みたいなものですね。モヤモヤしてる人は方角すらわからないですから。方角さえ分かれば一歩進めるし、一歩進むと人やことと出会う。そうして進む方向が変わっていってもそれはそれでいいんです。一番最悪なのはモヤモヤしたまま会社に流されていく人。理想未来を掲げるのに年齢は関係ありません。でも結果に対しての柔軟性があるのは若いうち。転職相談以外でもキャリアの壁打ち相手として僕たちを頼ってくれたら、こんなに光栄なことはありませんね。

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