転職活動が順調に進み、採用が決まると「内々定」いう状態になります。基本的に採用されることは企業内で決まっているものの、雇用契約は交わしていない状態が内々定。条件交渉の余地がある一方で、採用が完全に確定しているわけではないので注意が必要です。
この記事では内々定後に条件交渉すべきポイントや、交渉における注意点を紹介します。企業から内々定を獲得して転職の実現まであと一歩という方は、ぜひ参考にしてみてください。
そもそも内々定と内定の違いは?
さて、内々定の条件交渉のポイントを考えるうえで、まず内定と内々定の違いを抑えておく必要があります。内々定はまだ雇用契約が交わされていない状態なので、注意しましょう。
内々定とは?
内々定とは企業が志望者を「採用する意思」を示しているが、まだ雇用契約が定まっていない状態を指すのが一般的です。具体的には口頭などで採用することを企業担当者から伝えられていたり、オファーレター(もしくは雇用契約書)をもらっているがサインはまだしていない状態を指します。
雇用契約の内容がまだ締結されていないので、契約内容(=採用条件)について交渉の余地がありますが、企業側もまだ内々定の取り消しの余地があります。そのため、転職が確定したものとして行動してしまわないよう注意が必要です。
内定とは?
内定とは、入社はしていないが、正式な雇用契約を締結した状態を指します。したがって、具体的にはオファーレターにサインをして企業への返送が完了した段階です。
採用条件はオファーレターに明記されているはずなので、契約内容は確定しています。条件交渉の余地が基本的にない一方で、企業側も内定の取り消し=解雇と同等の扱いになりますので、転職者から見れば、内定を取り消されるリスクは下がります。
世間でいう「転職の内定取り消し」は、厳密には「内々定の取り消し」である場合もあります。
内々定における条件交渉や確認をすべきポイント
内々定の期間は転職の条件交渉をする実質的なラストチャンスになります。自分にとって不本意な内容で雇用契約を結んでしまうことのないよう、この期間に雇用条件を確認し、必要に応じて交渉を必ずおこないましょう。
具体的には、このタイミングで確認・交渉すべき条件は次の通りです。
- 年収
- 給与の支給条件
- 残業の取り扱い
- 仕事内容
- 勤務地
- 雇用の期間
それではここから順番に解説していきます。
年収
転職する際に最も重要なポイントは年収でしょう。採用試験や面接においては「金銭目的での転職なのでは?」と思われるリスクを気にして金銭面の交渉をしなかった方が多いと思います。一方で内定になってしまうと初年度の年収がおおむね確定してしまうので、内々定の段階で条件交渉をおこなう必要があります。
オファーレターにサインをする前に、必ず年収の条件を確認し、自分の希望に満たないものだったときは、企業の採用担当者と条件交渉をおこないましょう。
支給条件
年収額を意識するあまり見落としがちなのが給与の「支給条件」です。特に注意したいのは次の三点です。
- 残業代の支払い方法
- 賞与の取り扱い
- 諸手当の有無
残業代が年収の中に加味されているのか、まず必ず確認しましょう。次のようなパターンがあります。
- 残業代はそもそも考慮していないケース(この場合、残業が多いと実際の年収は提示されたものより上ぶれる可能性がある)
- 一定の残業時間を想定して残業代を上乗せしているケース
- みなし残業時間を設定して、その分を上乗せしているケース
- ホワイトカラー・エグゼンプションなどにより残業代が支給されないケース
残業代の支給方法は企業としてポリシーを定めている場合もあるので、変更交渉は容易ではないかもしれませんが、支給条件によって想定される年収も変わってくるので、必ず契約締結前に、残業代をどのように考えているか確認しましょう。
続いて、賞与についてですが、次のようなポイントを確認します。
- 支給時期と回数
- 初年度の支給条件(全額、月割り、不支給など)
支給時期と回数については企業で定められているケースが多いので、交渉の余地はあまりないとは思いますが、自身の金銭管理の観点からは内々定の段階で確認しておいた方がよいでしょう。
また、初年度の支給条件を必ず確認しましょう。入社日と次の支給タイミングまでの期間によって初年度の賞与が減額される、支給されないといったケースはしばしばあります。
また、その際、提示年収は「賞与が満額支給された前提」で記載されていて、実際に受け取る年収と乖離が生じる場合も。賞与が少ない・支給されないことに納得できない時は「サインオンボーナス」という入社時に支給されるボーナスを交渉するのも一案です。
残業の有無や長さ
ハイクラスのキャリアパーソンの場合残業が全くないということはあまりないかもしれませんが、残業の発生頻度や長さは可能な限り確認しておくことで、入社後のミスマッチを避けられるでしょう。
仕事内容・キャリアパス
仕事内容については面接の過程である程度コミュニケーションをとっているとは思いますが、内定後は想定外のミスマッチなどがあっても簡単に辞退できなくなりますので、仕事内容の疑問はこの段階で解消しておきましょう。
また、見落としがちなのがキャリアパス。企業によっては異動などが発生して当初の配属先と異なる仕事をする時期が来る可能性もあります。その場合は、将来自分が求める仕事ができなくなるリスクも。異動の有無やプロモーションの頻度・ペースなどを確認しておくとよいでしょう。
勤務地
勤務地は長期的に働くとなると重要なポイントになります。特に転居を伴う転勤を望まない場合には事前に交渉しておく必要があります。
また、ハイクラスのポジションの場合は海外転勤が発生する場合も。人によっては海外転勤はむしろウエルカムだと思いますが、いざ転勤するとなると生活に与える影響も大きいので、内定前に確認しておくとよいでしょう。
雇用の期間
多くの場合は正社員の無期雇用だとは思いますが、プロフェッショナル職などでは待遇などは魅力的でも1年〜数年更新の契約社員扱いとなる場合もあります。
契約社員となると将来の契約変更や解雇リスクが相対的に高くなりますので、契約期間は必ず確認し、正社員での雇用を希望するときは、必ずこのタイミングで交渉しましょう。
内々定で条件交渉するときの注意点
内々定の状態は条件交渉が柔軟にできる最後のタイミングですが、条件交渉に際してリスクがないわけではありません。ここでは内々定のステータスで条件交渉をするときの注意点を解説します。
取り消しのリスクはゼロにはならない
まず最初に、内々定取り消しのリスクは絶対にゼロにはなりません。契約を交わしていない以上、基本的には企業にはまだ交渉を打ち切る権利が残っています。あまりにも無理な要求をして企業を困らせるようなことは避けるべきでしょう。
また、常に取り消しの可能性は意識しておきながら交渉を進める必要があります。収入が途絶えるのを絶対に避けなければならない方は、現職へ退職を申し出るのはせめて内定のステータスになってからにした方がよいでしょう。
交渉の事情や根拠を整理する
条件交渉をおこなう際にはその条件を希望する事情や根拠を明確にする必要があります。条件交渉の題材になりやすいのは年収ですが、誰しも年収は高い方がよいに決まってます。それでも、年収の引き上げ交渉を納得してもらうなら、相応の理由が必要です。
年収に関する交渉する際の事情・根拠の例は次の通りです。
- 現職の年収水準を踏まえた条件の提示
- 過去の実績に基づき、年収に見合うだけの働きができるというアピール
- 業界平均・年齢平均を見た場合の適正値
業界平均・年齢平均などは自力で把握するのは困難だと思いますので、エージェントに相談した上で、納得感の得られる交渉材料を揃えておきましょう。
また、正当な事情・根拠を伝えることで、万が一交渉が不調に終わった場合も、正当な主張をしているとの印象を採用企業に与え、悪いイメージを持たれるリスクを防げます。
優先順位をつけて交渉する
誰しも良い条件で転職したいと思いますが、全ての要求を企業が叶えられるわけではありません。企業側にも人件費や既存社員とのバランス、社内規則などから逸脱した条件は提示できないからです。
その中でスムーズに条件交渉を進めるためには、絶対に譲れない条件(叶わないなら辞退する)とそうでない条件の優先順位をつけて交渉を進めるようにしましょう。
最優先の条件すら通らないのであれば、本当はその企業に転職するメリットは薄いのかもしれません。「転職を決める」ことが必ずしも最善とは限らないので、どうしても納得がいかない時は潔く辞退するのも一案です。
エージェントを介した求人はエージェントを挟んで交渉する
ハイクラスのビジネスパーソンでは、多くのケースがエージェントを介して転職活動をおこなっているでしょう。もし、内々定先がエージェントの紹介企業である場合は、条件交渉もエージェントを通じておこなうのがスムーズです。
そもそも、条件交渉を経て双方が納得いく形で内定に至ってもらうのはエージェントのミッションの一部です。企業の採用担当者も、交渉事項はエージェントが持ち込んでくるもと想定しています。それを直接企業と連絡をとってしまうのは、エージェントや採用担当者を混乱させてしまいます。「そうまでして我を通したいのか」と悪印象を持たれるリスクもあります。
また、エージェントはいわば転職における条件交渉のプロなので、スムーズに条件交渉が可能です。企業との関係を悪化させることなく良い条件を引き出すことができるでしょう。引き際もわきまえているため、通る余地がない無茶な要求を突きつけて関係を悪化させることも避けられます。
内々定は企業と交渉ができる最後のチャンス
内々定の時点では、まだ転職が確定しないことを留意する必要がある一方で、条件交渉をおこなう実質的な最後のチャンスです。雇用契約を交わした後に後悔しないよう、慎重に交渉を進めましょう。
ただし、企業も希望を全て叶えられるとは限らないので、希望する条件に優先順位をつけ、極端な無理強いは避けましょう。どうしても求める条件が通らないのであれば、転職を辞退するのも一案です。
内々定まで来れば、転職の実現はもう目の前。最後に失敗して内定取り消しになったり、後悔の残る形で転職することにならないように、適切に交渉を進めるようにしましょう。