終身雇用が崩れつつある昨今、特にスキルや実績に自信のあるハイクラスのビジネスパーソンは転職で積極的にキャリアアップのチャンスを探るようになってきています。企業は従来より人材確保が困難になっていてきるため、戦力になる人材を高い確率で獲得する方法を模索しています。
そのようななかで、最近社員の知人を通じてポジションに適した人材を獲得する「リファラル採用」という手法に対する注目が高まっており、導入する企業も増えています。
転職希望者においても、リファラル採用による転職の可能性を探ることで、思わぬキャリアアップの機会が出るかもしれません。今回はリファラル採用の基本や導入が進む背景、そして転職者から見た場合の活用するメリット・デメリットを紹介します。
リファラル採用とは？
まずはリファラル採用の基本と、似ている印象を持たれがちな縁故採用との違いを紹介していきます。
リファラル採用は社員の知人を通じて人材候補を見つける手法
リファラル採用とは、現在勤めている社員や過去勤めていた会社の知人などを通じて、採用したいポジションに相応しい人材候補を見つけて雇用することを意味します。ビジネスパーソンは仕事を継続しているなかで、同業他社の人間と知人関係にあったり、大学時代には逆に少し異なる業界に足を踏み入れた人材と友人関係であったりします。
こうした人間の中から、社員が「優秀で、今人を探しているポジションにあっている」と考える人を推薦してもらいます。社員が知っている人間であることから、人柄やスキルのことをある程度把握していることや、入社交渉などを優位に進めることが可能であるなど、企業側が効率的に採用を進めるうえでメリットがあることから、いま、リファラル採用の導入が進んでいます。
縁故採用との違いは？
リファラル採用と縁故採用は同じものではありません。主に次のような2点で異なります。
- 縁故採用よりは人材の候補となるユニバースが広い
- あくまで「候補」を探すだけで、選考は公平におこなう
従来の縁故採用というと、対象は現社員の親戚関係が基本でした。リファラル採用は血縁関係は問題ではなく、社員の社会人や学生時代の知人・友人関係となった人をターゲットにすることになります。
もちろん親戚にポジションに適した人材がいるという場合にリファラル採用にかけるケースも考えられますので、縁故採用よりリファラル採用の方が人材候補のユニバースは広いといえるでしょう。
一方またもう一つの大きな違いは、リファラル採用はあくまで候補者のスキル・実績を踏まえて選考をおこなって採否を決める点です。むしろ、探しているポジションにマッチした人材を効率よく探すために、社員の人脈を活用しています。縁故採用は採用することが前提であったり、血縁関係などが重視され、スキルのマッチなどは重視されない傾向があったりする点で、リファラル採用とは異なります。
企業でリファラル採用の活用が進む背景
リファラル採用は近年優秀な人材を採用するための手法として注目され、実際に活用する企業も増えてきています。リファラル採用の普及が進む背景には大きく三つの理由があります。
人手不足への迅速な対応
一つ目の理由や、人材不足が課題となるなかで、エージェントを介して人材を探すよりも、リファラル採用の方が迅速に優秀な人材を補充できる可能性が高いためです。
近年は少子化を背景に若手〜中堅の労働力人口が減少傾向にあります。したがって、そもそもこの年齢層の人材が日本全体として不足しがちです。その上、近年は終身雇用が崩壊しつつあるなか、積極的に転職して自分のキャリアを追求する人が増えてきました。
これらの要因を背景に企業は従来よりも人材不足に悩まされるようになっています。特に高いスキルを持つハイクラス人材は企業において要職に就くケースも多く、補充が遅れれば企業のパフォーマンスへの影響も大きくなります。
そのときにエージェントを介して人材を探すと、どうしてもエージェントが人を探し、選考を行い、採用に至るまで時間がかかってしまいます。一方で、リファラル採用であれば社員の知る人間と早いタイミングで直接選考や交渉ができるため、スピーディに補充が可能です。
転職市場外にいる人材にアプローチするため
優秀な人材が都合よく転職活動をおこなっているとは限りません。特に専門性や難易度が高い業務をおこなうポジションとなると、マッチする人材が限られてきます。そのような人材は他社でもニーズがあることから、手厚い条件で雇用されていて転職を検討していない可能性も多分にあります。
こうした人材はエージェントと積極的に接触しないため、エージェント経由では出会うことができません。しかし、リファラル採用なら、知人となる社員がいれば、その社員を通じて交渉にこぎつける余地があります。
採用コストを下げるため
もう一つの理由は採用コストの削減です。転職エージェントを活用すると、基本的には内定が出るごとにエージェントにフィーを払わなければなりません。前述の理由から中途採用をおこなう頻度が以前より増えた企業も多く、それらを全てエージェントを介しておこなうと、それだけ採用コストがかかってしまいます。
人材を採用した際の手数料は、エージェントによって様々ですが、現代では転職者の初年度の年収の35％が一般的。例えばもし、年収1,000万円で中途採用をおこなったら、採用者が確定した際には350万円程度をエージェントに支払うということになります。エージェントを活用した場合に発生する採用コストは決して安くないのです。
当然のことながら、リファラル採用なら、この手数料は発生しません。そのため採用コストを削減し、効率的に人を雇う方法として、リファラル採用が活用され始めているのです。
転職者から見たリファラル採用で転職するメリット
リファラル採用は中途採用をおこなう企業だけでなく、転職希望者から見てもメリットがいくつかあります。リファラル採用で転職をおこなえば、少ない労力で自分にマッチした職場に転職できるチャンスがあります。
選考が早く進み、高い通過率が期待できる
一般的にリファラル採用は選考が通常の転職活動よりも早く進み、また通過率も上がる可能性が高いと考えられます。
リファラル採用の場合、少なくとも転職エージェントとの面談が発生しないため、短期間で企業との面接に進むことが可能です。また、企業のスタンスにもよるものの、社員がよく知っている人間であるとの評価が追い風となり、企業の選考フロー自体も短縮される可能性があります。特に足切りの要素が大きい書類選考はスキップとなるケースが多いようです。
また、リファラル採用は社員から候補者について充分ヒアリングしたうえで面接をおこなうか検討可能です。そのためエージェント経由よりも、候補者のことを把握してフローを進めるため、一度選考フローに乗れば、通過率は高いと期待できます。
ミスマッチが起こるリスクが低減する
リファラル採用では転職希望者と、転職先で働く社員が知人関係にあります。そのため、入社前に転職先企業の内情を確認したうえで転職を決断することが可能です。もちろん企業側も社員を通じて転職希望者の人となりを把握したうえで内定を出します。
エージェント経由の転職採用よりも、企業と転職希望者がお互いのことを理解しあったうえで採用することができるため、転職後にミスマッチが発生し「こんなはずじゃなかった」と思うリスクが低減します。
職場に馴染みやすい
通常の転職よりも職場に馴染みやすいのもリファラル採用を行うメリットです。知人がすでに社内で築いている人間関係を活用すれば、自身も職場に馴染みやすくなるでしょう。また、このことは業務を進めるうえでもプラスに働きます。
人脈が形成されている方がコミュニケーションが取りやすく、業務を円滑に進められる局面は少なくありません。入社してすぐ業務がこなせるようになれば、転職先での高い評価にもつながっていきます。
転職者がリファラル採用を活用するうえでのリスク
リファラル採用はメリットが多い一方で、いくつか留意すべきリスクもあります。これらのリスクに理解したうえで、リファラル採用を利用して転職すべきかどうかを検討しましょう。
転職に失敗すると知人との関係性に影響が出る可能性がある
リファラル採用の最大のリスクは転職が不調に終わった場合に、知人にも迷惑がかかったり、最悪の場合不仲に陥ったりする可能性がある点です。
例えば、次のような事態になった場合に、知人に迷惑がかかる可能性があります。
- 選考を進めたのち、最終的に辞退してしまう
- 年収交渉において無茶な要求をする
- 転職をしたもののマッチせず、短期間で辞めてしまう
こうした事態が発生した場合に、その企業の社員である知人が気まずい思いをする可能性があります。転職希望者と社員である知人の人間関係に亀裂が入るリスクもあるので、リファラル採用といえど、選考を受けるか、本当に転職すべきかは慎重に検討すべきでしょう。
知人との関係性に配慮して、身動きが取りづらくなる
逆に、知人との関係性を重視した結果、さまざまなポイントに遠慮してしまう可能性があります。
例えば、採用時の年収交渉です。無茶な年収を提示すると知人に迷惑がかかるのでは、と考えて、適正より低い水準で承諾してしまうかもしれません。また転職後に不満が発生しても声に出しにくく、次の転職もしづらくなる可能性もあります。
他の企業との比較検討がしづらい
リファラル採用をおこなうとなると、エージェントを介さず転職活動を進めるため、応募社数は絞られます。1社のみと選考を進めるケースが多いでしょう。応募社数が少ないことは、転職希望者の負担が減る一方で、比較検討して、最良の企業を選択する機会を失うことになります。
リファラル採用を活用する時も、エージェントを介した転職活動を並行しておこなえば、このリスクを回避して、比較検討しながら転職先を選ぶことが可能になります。
リファラル採用を活用すれば転職のチャンスが広がる！
今回紹介したように、リスクが全くない訳ではありませんが、やはり現場社員からの紹介を受けて転職を進められるリファラル採用は転職者にとって魅力的な採用システムであることは間違いないでしょう。
エージェントを介した転職活動とリファラル採用を並行検討すれば、自分にとってのベストな転職先に出会える可能性が高まります。ハイクラスの転職＝エージェント経由と考えていた方は、今回の記事も参考に、魅力的な企業に勤める知人に声をかけて、リファラル採用をおこなっていないか確認してみるのもよいでしょう。
